2019年10月20日に予定されている15th anniversary SPECAIL LIVE at 大阪城ホール2019「IN MY TOWN」に向け、全力で走り出しているフジファブリック。そのスターターピストルにあたる通算10作目のアルバム『F』がついに完成した。
最高傑作を目指して
「2017年秋から2018年にかけて、フジファブリックは沢山曲を作っては録音を続けていて。その作業と並行して、2019年にフルアルバムをリリースしようという話になったんですけど、今回のアルバムはデビュー15周年の節目の作品ということもあり、3人の総意として、文句なしの最高傑作を作りたかったんです。だから、お話をいただいたタイアップの配信曲や映画のお仕事はコンセプトアルバムという形でリリースして、フルアルバムはフルアルバムで集中して制作を進めさせてもらったんですけど、その制作では、まず、「手紙」が足がかりになりました。この曲は自分たちのルーツや“ふるさと”を肯定するもので、出来た時、バンドにとって大切な曲だなという手応えがあって。一番最初にアルバムに収録しようということになりましたし、そのルーツを踏みしめて、新しい音楽の形を提示したいという、制作を進めるうえでの大きな指針にもなりました」(山内総一郎)
バンドの進化、受け継いだバトン
節目のタイミングで立ち返る必要があったルーツから、現在、そして、未来へ。「Walk On The Way」で幕を開け、「破顔」、「手紙」と続く新作アルバム『F』の前半は、多彩な顔をもつフジファブリックが、歌を主軸にした楽曲の真っ直ぐで力強い推進力で行く手を切り開く。一音一音に気持ちが込められた各楽器が呼応し合うバンド・アンサンブルと金澤ダイスケによるストリングス・アレンジのシンプルにしてハーモニックなマジックはバンドが長い時間をかけて熟成させてきた唯一無二のものだ。
「志村くんが亡くなってしまうというバンドにとっての最大の危機があって、彼が心血を注いできたバンドの進化、受け継いだそのバトンが自分たちにとってのモチベーションであり、フジファブリックを生かしている原動力でもあって。だからこそ、このアルバムでは、3人で音楽を奏でる楽しさを噛みしめて、その喜びを徹底的に謳歌しようと。そうすることで生まれる感情には何にも代えがたい強さがありますし、圧倒的な肯定感に満ちている冒頭の3曲を改めて聴くと、自分たちは15年かけて、その強さを表現出来るバンドにようやくなれたなという手応えを感じます」(山内総一郎)
そして、楽曲に注ぎ込まれた圧倒的な熱量はそのままに、アルバム中盤以降はフジファブリックが得意とする予想もつかないストレンジなポップセンスによって多面的な音楽性を楽曲に投影。オリエンタルなニューウェーブディスコがピンク・フロイドを彷彿とさせるプログレッシブな展開を見せる「LET'S GET IT ON」をスタジオのセッションから作り出したかと思えば、金澤ダイスケが手がけた2曲、スカパラホーンズをフィーチャーした爽快なソウルポップに恋愛と食の高揚感を綴った歌詞を合わせるという重層性に一筋縄ではいかない作家としての顔が投影された「恋するパスタ」、オルタナティヴで厚みのあるギターサウンドとレトロなコンボオルガンが同居した「High & High」は、聴き手の脳を右に左に揺さぶるかのよう。
耳に残って欲しい、記憶にとどまって欲しいという表現
「メンバー三者三様、“フジファブリックとは何なのか?”を突き詰めた今回のレコーディングでは、それぞれのルーツが垣間見える瞬間が興味深くもありましたし、色んな音遊び、言葉遊びもフジファブリックらしさであって、この15年の要所要所でお世話になってきたスカパラホーンズをお招きしつつ、「恋するパスタ」では我ながらどれだけ遊んでるの?っていう歌詞を乗せてしまいましたし、「High & High」ではキーボーディストなのに何故かギターを弾きたい欲求を爆発させてしまったという」(金澤ダイスケ)
「でも、この2曲に表れているような真剣なふざけ具合というか、中毒性のあるポップ感覚、つまり、耳に残って欲しい、記憶にとどまって欲しいという表現こそがダイちゃんの考えるフジファブリックなんだと思いますし、同じことが加藤さんにも言えると思うんですよ。僕の書いた曲に歌詞を付けてくれた「Feverman」も内容はもちろん、“お祭り男”というタイトルからして突き抜けているところも加藤さんの考えるフジファブリックなんですよ」(山内総一郎)
加藤慎一が手がけた2曲、アイリッシュミュージックとお祭り囃子の融合に祝祭感覚を凝縮した「Feverman」の歌詞しかり、昭和歌謡やラテン音楽に通ずる哀愁感と天上のサイケデリック感が混在した「前進リバティ」しかり、高度な音楽性やバンドに対する真摯思いがバックボーンになっているからこそ、たがが外れた音遊び、言葉遊びは深みや説得力を増している。
「サビのメロディは一緒なんですけど、コードが変われば、明るく聞こえたり、切なく聞こえたりする音楽的なアイデアを形にした「前進リバティ」はサウンドこそ特殊だと言われるんですけど、歌詞はバンドに向けたものであって、何があっても僕たちは進んでいく、と」(加藤慎一)
「でも、どこに進むのか。このまま進んでいいのか。もしかすると終わりに向かって進んでいるのかもしれないし、かといって進んでいかないとバンドが止まってしまう。バンドを長く続けていたら、いつも、イケイケドンドンな勢いだけではなく、テンションが下がる時だってありますし、加藤さんはこの曲でそういうバンドのありのままの姿を描く役割を担ってくれたんです」(山内総一郎)
“手紙”と“東京”。そして集大成“大阪城ホール”へ
そして、アルバムを締め括るのは、フジファブリックが続けてきた長い旅のなかで経験した悲哀と歓喜が揺るぎないグルーヴと共に押し寄せるダンスナンバー「東京」だ。
「もともと、ライブ中の曲紹介で「手紙」を間違えて「東京」と言ってしまったことをきっかけに書いた曲なんですけど、自分にとっての東京はどんな街なんだろう?と考えた時、すごくパワーに溢れた街なので、まぶしく見えたり、色んな思いや夢を抱きながら、上京する人が多いじゃないですか。でも、色んなことがあって、傷ついて傷つけられて日々を過ごしていくうちに、いい意味でも悪い意味でも人間的に丸くなっていく部分があるなって。そういう自分を鼓舞する意味も込めながら、聴いている全ての人に向けて、何か夢を持っているなら、東京が象徴する大きな流れに負けずにそれを貫いていこうぜって。だから、どちらも夢について歌っているという意味で、「手紙」と「東京」は対の関係にあって、その2曲に象徴される今回の作品はバンドと夢についてのアルバムになっているんだと思います」(山内総一郎)
「今回、自分たちにとっての最高傑作を作りたいと思って制作に取り組んできたんですけど、その思いもまた夢であって、デビューから15年活動を続けてきて、その夢を実現することが出来て、この先進んでいくうえでの大きな自信になりましたね」(加藤慎一)
「アルバムタイトルは“FUJIFABRIC”の『F』であり、“FUTURE”の『F』でもあるからね。だからといって、この先のことを考えたら、決して気楽な気持ちではいられないんですけど、バンドは過去最高の状態なのは間違いないですし……」(金澤ダイスケ)
「フジファブリックは挑んで挑んで、挑み続けるバンドですからね。その先のバンドの未来を見るために、アルバムのツアーとその後に控える大阪城ホールに挑むフジファブリックのライブを絶対に見逃さないで欲しいですね」(山内総一郎)
デビュー15周年の大きな節目のタイミングで、これまで歩んできた道のりに思いを馳せながら、今という時間を最高なものへと高めていく飽くなき挑戦によって未来を作り上げていくんだという3人の強い決意が感じられる新作アルバム『F』。その試行錯誤の困難さに足をすくわれることなく、制作に集中、没頭したことで生まれた濃密な楽曲からバンドアンサンブルを奏でる喜びが躍動する本作は、音を楽しむことを職業とする3人が15年かけて辿り着いた明確にして深いフジファブリックの核心部分だ。そして、その喜びが創造力を刺激し、また新たな音楽へ。フジファブリックの歴史は確かな実感と共にこの先も続いていくことだろう。
テキスト:小野田雄