The history of FUJIFABRICThe history of FUJIFABRIC

“変わらずに変わり続ける”ということ

 2019年にデビュー15周年のアニバーサリーイヤーを迎えるフジファブリック。その長きに渡るバンドの歴史は、“変わらずに変わり続ける”バンドの挑戦的なスタンスを浮き彫りにしている。叙情的なメロディと高い演奏技術に裏打ちされたバンドアンサンブルから生み出される多彩な楽曲や作風の変化はもちろんのこと、2009年にはメインのソングライターにして、ヴォーカル、ギターであった志村正彦が急逝。バンドは存続の危機に直面するも、ボーカル、ギターの山内総一郎、キーボードの金澤ダイスケ、ベースの加藤慎一からなる新体制で活動を再開し、2014年には初の日本武道館単独公演を成功させた。

「フジファブリックは、志村くん含め、みんなが影響し合いながら活動してきて、デビュー5年目の年に志村くんは亡くなってしまったんですけど、それまで続けてきたキャッチボールが、ボールは変わらずにいまだに続いている感じなんです」(山内総一郎)

 王道のポップスを指向しながら、ナチュラルなねじれが生じてしまう愛すべきストレンジ感覚。それは志村から受け継いだバンドの大切な財産であり、キャッチボールを続ける3人が初めは戸惑いつつ、そして、いつからか鮮やかに、高らかに奏でるようになったフジファブリックの強い個性だ。

もっと独自に、もっとポップに

 そして、武道館ライブ以降、フジファブリックの音楽は更なる広がりをみせることとなった。2015年、「Green Bird」のプロデューサーにagehaspringsの百田留衣、「Girl! Girl! Girl!」にCHOKKAKUを迎えた2枚の濃密なミニアルバム『BOYS』『GIRLS』をリリースすると、2016年には内省的でプライベートなムードを内包した『LIFE』から一転して、新たな世界へと突き抜ける勢いに満ちたアルバム『STAND!!』を発表した。さらに俳優の山田孝之をフィーチャーした遊び心に富んだ2017年のシングル「カンヌの休日」とショートムービー『僕たちは今日、お別れします。』のテーマソングである配信シングル「かくれんぼ」を経て、2018年4月から3カ月連続リリースの配信シングル企画がスタート。「Sugar!!」を彷彿とさせるポジティブな疾走感に満ちた第1弾「電光石火」、加藤慎一が作詞作曲を手がけた第2弾「1/365」と続くリリース曲は、変幻自在の音楽性を誇るフジファブリックのポップ感覚が解き放たれたように感じられる。

「フジファブリックは活動を始めた時と今とでは歌っている人間が違うバンドです。バンドの体制が変わっても道を逸れることなく、地続きでここまでやって来られたのは、無茶なことを求めず、そのままの自分たちでいさせてくれたリスナーや周りのスタッフの存在も大きかったですし、不器用なこの3人が顔を突き合わせて音楽を作り続けてきたから。そして、独自の道を歩んできたからこそ、今改めて思うのは、音楽ももっと独特で、もっとポップなものであっていいんじゃないかということ。デビュー15周年を控えて、僕たちが向かっていくべきなのはそういう場所です」(山内総一郎)

大阪城ホールが意味するもの

 デビュー15周年の節目を控え、その先の未来を見据えたフジファブリックが、2019年10月20日に大阪城ホールでライブを行う。そのステージは、大阪出身の山内総一郎にとって、特別な思いがある場所だという。

「大阪城ホールは、僕が地元大阪で音楽家を志して以来、いつか、そのステージに立ちたいとずっと思い続けていた場所です。そんな思いを抱きながら、20歳の時に出てきた東京で、フジファブリックの仲間たちと出会って、ここまで活動してきましたが、年齢を重ね、経験を重ねていくと、メリット、デメリットを考えて、冒険することがどんどん難しくなるし、怖くなったりもする。でも、その一方で、初心を忘れたくないし、現状に甘んじていたくないという気持ちも常にあって。〈これでいいのか?〉という自問自答の連続がフジファブリックの音楽をどこまでも響かせたいという強い思いになり、15周年という節目のタイミングで長年の夢だった大阪城ホールでのライブを実現したいという気持ちがどんどん膨らんでいきました。」(山内総一郎)

「2008年に志村の夢だった山梨の富士五湖文化センターでライブをやったこともそうですが、まだ立ったことのないステージで新しい景色を共有するという体験はそれを夢見るバンドメンバー、そして、集まってくれるお客さんがいないと成立できないと思うので、その日が来るのが楽しみです」(加藤慎一)

「総くんの夢はフジファブリックの夢でもありますからね」(金澤ダイスケ)

バンドの歴史が大きく動く瞬間

 バンドが抱く夢、そこに集うオーディエンスの思い。ロックの輝かしい歴史は、それらが一体となった時に起こる魔法で彩られているが、果たして、フジファブリックはどんなライブを繰り広げることになるのだろうか。

「大阪城ホールの会場規模は10周年の日本武道館よりも遥かにハードルが高い。フジファブリックのことをより多くの人に知ってもらい、期待してもらわないと成立しないと思っていますし、長年の夢の実現は今までの経験だけでは叶わないと思っているので、魂のすべてを捧げて臨むつもりです。そういう大きな目標があるからこそ、より広がりのある響きやエッジをより研ぎ澄ませた演奏を意識できるのかと思っていますし、今はそこで鳴っていて欲しい曲を作ろうという活力が湧いてきています。過去の楽曲も現在のバンドサウンドで未来に向けて鳴らすという挑戦こそがバンドの歴史となり、この先の道を作っていくのだと思います」(山内総一郎)

 フジファブリックが現在の3人体制になって、間もなく10年。バンドの進化は、フロントに立つ山内総一郎のパーソナルな世界を深く掘り下げることでもあり、その原点である彼の夢の実現はこの先もフジファブリックが前進していくうえで必要不可欠なものだ。その切実さに突き動かされ、今まさに没頭しているレコーディングでは、バンド・アンサンブルを研ぎ澄ませ、普遍的な広がりを持った新曲の数々が生まれつつあり、それらの点が線で結ばれ、面となった作品にまだ誰も知らないフジファブリックの未来が映し出されることになるのは間違いなく、その思いの強さは必ずや大阪城ホール公演を大きな成功を導くことになるだろう。今まさにバンドの歴史が大きく動き出そうとしている瞬間をより多くのオーディエンスに立ち会っていただきたい。